【夏休み特別企画】一宮で異次元にトリップした話

今年の台風は東からやってくる。上陸するかと思いきやプイッと進路を変える。変えると思いきやそのまま西へ通過するときもある。

小学校からの幼馴染の武田もそんな感じ。独特。

8月の始め、僕らは旅をすることにした。

自転車で一宮市を周り、喫茶店のモーニングを食べられるだけ食べる旅。

 

朝早めに集まって一宮まで輪行をする。

自転車をたたみ、袋に入れると電車につむことができる。数百円で2時間ワープ。楽ちん。

武田を見ると、しかめっ面をしていた。サングラス越しでも分かるほどに。

自分の自転車が邪魔になっていることに腹が立っているようだった。通勤ラッシュ時に比べたら全然大丈夫だと説明している間に一宮に着いた。

 

自転車を組み立てて出発する。ピューン

 

1軒目 HIRONCHI

8時20分くらいに行ったら店主さんが店を開ける直前だった。ちょっと待ってて下さいねとペコペコされたので、僕らもすみませんねとペコペコして少し待つことにした。

 

待っている間、近くを散歩した。

一宮は田んぼが多い。

台風が近づいていた影響でさわさわと風が吹いていた。

土と草のいい匂い。

その中に鉄塔がどんと立っていてかっこよかった。

 

10分ほどしてから行くと夫婦が笑顔で迎え入れてくれた。

店内は広くて、清潔だった。テレビでトムとジェリーが流れていた。子供連れにも優しい店、という雰囲気。

手書きの看板や店内の飾りが夫婦の性格を表していた。

早速アイスコーヒーのモーニングを頼んだ。喉が乾いているときの一口目が美味しい。

モーニングは、ドリンク代でサラダとパンが付く。それに+150円でオムレツが付く。このオムレツが絶品だった。

日本人の誰しもが心の中に理想のオムレツ像をもっていると思う。それがなぜかみんな同じなのが不思議だ。外はプルプル、中はトロトロのやつ。多分大学の暇すぎる時期に一度はオムレツ作りにチャレンジするんだと思う。それで失敗する。

でもここのはその逆。オムレツの頂点という感じ。オムレツを愛しオムレツに愛されたオムレツ。何言ってんのかな。そんな感じ。

どうやってこんなに美味しいオムレツを作るんですかと聞いたら、美味しくなあれって言ってますと言われ、照れた。

 

2軒目 CHERBON

大きい国道を横切って2回曲がったらすぐに着いた。

中に入ると思わず「おおっ」と声が出た。ホテルのラウンジを思わせる店内。木の曲線美。中央のグランドピアノ。赤いカーペット。制服を着たウェイトレスさん。素晴らしく大人な純喫茶に出会った。

家族連れから老夫婦までいる理想的な客層。古くからこの街で愛されてきたのだろう。

モーニングを頼んだ。今度はバナナジュース。

モーニングはドリンク代で、ごまトースト、サンドイッチ、オムレツ(玉子焼き寄り)、サラダ、オレンジが付く。オススメはごまトースト。ごま団子のような風味でパンがしっとり美味しかった。

他にもホットドッグやポテトサラダも美味しいらしい。

 

2人してグラスを傾け、ストローでジュースをゾゾゾっと飲み干す。

カランと氷が崩れる音がする。

赤い何かが見えた。

 

「バナジューの底にチェリーが沈んでた」

「ほんとだ」

「シロップ漬けのチェリーって美味しくも不味くもないよね」

「ちょうど、そうだね」

「でも食べちゃう」

「なんでだろうね」

「勿体無い精神かな」

「かもね」

「作ってる人はさ、どんな気持ちで作ってると思う?」

「立派な飾りになりなさいって感じじゃない」

「どうせなら美味しく作ってあげてほしいよね」

「俺はどっちでもいい」

 

種を皿にプッと出してから、椅子に浅く腰掛けて窓の外のソテツを見ていた。ソテツは枯れかかったときに鉄を打ち込むと復活するから蘇鉄と書くらしい。

大きな葉が揺れるたびに光がチラチラ入ってくる。

机に映る木漏れ日に照らされてコップが汗をかいている。

夏を感じる瞬間。

 

3軒目 cafe KURODA

次は6キロくらい離れた少し遠くのカフェを目指すことにした。

一宮は平坦で走りやすい。

大通りを一本入って路地裏を抜けていく。

風は強かったけど常に追い風でどんどん進む。なんかツイてるのかも。

自転車をしばらく走らせていると、かなり渋いロマンポルノ映画館を見つけた。やっぱりツイてる。入るか結構悩んだ。せっかく一宮に来たんだからさ、せっかくってなんだよ、みたいな会話を何回かした。

上映予告のポスターにダメ出しをしているうちにある程度満たされたので、写真を撮ってその場をあとにした。

 

目的地へは11時過ぎに着いた。

スロープを上がって引き戸を開けると明るい店内に数人の店員さんがいた。レジ前には手作りのクッキーなどが陳列されている。

ここは障害者の方の就労支援を目的としたカフェだ。

そのためメニューも格安。

モーニングは飲み物にトーストやゆで卵などが付く。+30円か+50円をするとトーストをシナモントーストやホットサンドに変更できる。写真はホットサンド。

店員さんがゆっくり料理を運んで来てくれた。一生懸命さが可愛い。

さてと、まずはパンから食べますか。

ホットサンドを一口食べて手が止まった。

 

無理もない。

 

3度目の朝食だからだ。

 

トースト、サラダ、卵料理、ドリンク、トースト、卵料理、卵料理、ドリンク、サラダ、サラダ、ドリンク、トースト

 

何度も繰り返される夏休みみたいで怖くなって無心で食べ続けた。

武田を見ると、ハチミツと勘違いしたのかリンゴゼリーの表面にパンを滑らせていた。「おい!」と言うと、「あ、これゼリーか」と不気味に笑っていた。

僕たちは朝からずっとモーニングを食べているので今が朝食なのか昼食なのか分からなくなっていた。

恐るべし一宮モーニング。

 

4軒目 喫茶ピットイン

この旅の目的は自転車で一宮を走り、モーニングをはしごすることだ。

この時すでに正午を回っていたが、僕らは「一日中モーニングがやっている喫茶店」を目指して自転車を漕いでいた。

 

「玄関の犬の置物って怖くない?」

「そうか?」

「犬の置物をかわいいと思って置いてることが怖い」

「ああ、まあね」

「あの信号みぎ」

「おう」

「あと造花も怖い」

「それは分かる」

「ベランダの柵に巻き付けてるツタのやつ怖い」

「色あせたりしてるやつね」

「土に造花が刺さってるとゾッとする」

「そいつはもう完全にアレだろ」

 

太陽は天高く上がり切っていた。夏の日差しが襲いかかる。

ラーメン屋の横の自動販売機で水を買って飲んだ。

武田がいつもより水が甘いというので、それは口の中のばい菌がそうさせているのだと嘘を言っておいた。

 

そうこうしているうちに目的地へ着いた。

看板の柱に自転車をくくり付けて外観を眺める。窓から見えるレースのカーテン。

多分、おばさまがやっている系の喫茶店だろう。

そんな気がした。

 

店の扉を開けた。

 

??「はい!さあどうした!どうも!」

僕ら「え?」

 

何かが話しかけて来た。

 

??「何人?カウンターがいいか、あ、奥空いてるよ、どこでも自由にな!」

僕ら「あ、ああ、じゃあ奥で」

 

店員のおばちゃんだった。

扉を開けた1秒後に開始された接客。

とにかく圧が凄い。接客というより圧客。

武田を見ると、笑いながら両手の手の平を店員さんに向け「遠慮します」のようなポーズをとっている。

多分、見えない圧を無意識のうちに手で受け止めているのだろう。

戸惑いながらふと横を向くと

 

入り口に造花

「うわっ」と声が出た。

満開のまま止まった花はやっぱり怖い。

肩をすくめ、奥へと進んでいくと

 

窓際に造花

 

座席横に造花

 

店内全部造花

 

ていうか店員のおばちゃん

靴はいてない

 

ウッウッ、ウワーーー!!

まさかのアレな店に来てしまった。

頼りの武田も、もうずっとへらへら笑っている。

BGMには演歌が流れているし、このままじゃ情報量の多さに頭がパンクする。

ここはとりあえずメニュー表を見て落ち着くことにした。

 

メニュー表

なんか変

 

店内に入ってから3分ほどで白目になってしまった。

もう煮るなり焼くなり好きにしてください。

 

本日4度目のモーニング。アイスコーヒーを頼んだ。

モーニングは飲み物にトースト2種、マカロニサラダ、茶碗蒸しが付く。素晴らしく最高。

お皿は割れているけど全然許せる。むしろ良し。

ゆったりしていたら飴とおかきくれた。

店内に流れる演歌を聴きながら造花を眺める。

頭がふわふわして来た。

武田はタバコをふかしながら店内の手書きのポスターを見て笑っている。

店員のおばちゃんは「板東英二は性格が悪い」という話をずっとしている。

なんなのだろうか、この、なんとも言えない居心地の良さは。

 

初めは怖いと思ったけど、飛び込んでみればなんてことはない。

知らないからただ怖いだけだったのかも。

 

食後に出てくる昆布茶(コーヒーに合わないよ)

焼きそばセットにはサンドイッチが付いてくる(もはやメイン)

こだわりの手作りゼリーは1つ50円(安すぎませんか)

 

色々なハテナが集まってできた店。

時空の狭間に滑り込んで一休みしたい人にお勧めしたい喫茶店。

 

おしまい

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