『夏休み楽しかったことは、けん玉の大会に行ったことです。どうして楽しかったのかというと、すごかったからです。』
小学3年生の夏の作文の書き出しと思いきや、30を過ぎたおじさんのブログの書き出しである。
7月の21、22日に広島で行われたけん玉の世界大会へ行った。
この大会はKWC(けん玉ワールドカップ)と呼ばれ、サッカーのワールドカップ同様、世界でけん玉が一番上手いのは誰かを決める。今年は、5大陸18カ国の選手がけん玉発祥の地である広島県廿日市市に集まった。
今年の注目株は何と言っても金田奏くんだ。前回の大会で見事、日本人初の世界チャンピオンに輝いた。今回は連覇の期待がかかっていた。
その前に立ちはだかる数々のプレイヤー達。
2016年大会の王者、ハワイのブライソン・リー。
上手すぎてインスタグラムで話題になった、イスラエルのリアード。
イケメン双子のアメリカのギャラガー兄弟。右利きがザックで左利きがニック。
昔ながらの基本技とバランス技を得意とする、日本の伊丹けん玉クラブ。
90年代のスポ根漫画を彷彿とさせる面々である。はてさて、優勝するのは誰だろうか。
僕とけん玉
僕は子どもにけん玉を教えるのが好きで、毎年どの学年になっても教えている。
子供の頃、学童でけん玉が上手い指導員さんがいたのだが、「教えてください」と言うのが恥ずかしくてもじもじしているうちに辞めてしまった。その時の思いを晴らすために大人になった今、休み時間に子ども達とテチテチやっている。
今年もうちのクラスはけん玉が流行った。授業の終わりの鐘が鳴ると男子がけん玉に群がる。そして何かに取り憑かれたようにもしかめをやっている。
流行らせるにはコツがあって、初めはけん玉をやりたいという子どもの人数より少なめの数だけ置くようにする。そうするとクラス内だけでけん玉自体の稀少性がどんどん上がる。男子はほかっといてもやるのでほかっておく。女子は周りの目を気にしてやらない場合もあるので女子専用けん玉を用意する。ピンクやふじ色があると「かわいい!」と言ってやってくれる。
ブームがピークの頃に「けん玉の技100選」という、技が100個載っている本をポンと置く。そうすると、子ども達の間でどんどん技を競うようになる。技ができたらハイタッチをする。嬉しいから取り組む。出来たらハイタッチ。アドバイスする。できる。ハイタッチ。
こうして永久機関が完成するというわけだ。
昔教室で流行らせすぎて、けん玉を買いたいという保護者の方から「近所のおもちゃ屋からけん玉が消えました!」と言われたくらい流行った事もある。
実家がおもちゃ屋で小学校の教師をしている人は是非参考にしてほしい。
海外で進化したけん玉
僕が小学生の頃、図書室で読んだ本に、けん玉の技は1万種類あると書かれていてびっくりした。
これまで日本では、とめけんや飛行機など、昔から伝わる技が10回中何回できるのかを競うという比較的地味な遊び方が主流だった。しかし2010年頃、日本に来た海外のスケーターがけん玉をお土産に持ち帰り、外人がノリでいろんな技を考えてなんかかっこよくなって帰ってきた。フリップやジャグ、インスタやファストなど新しい概念も登場し、見た目も派手に進化していった。海外に輸出されたことで、けん玉の技の数も5万種類ほどに増えているらしい。
海外に行くと何でも変わってしまう。
昔付き合っていた子が留学から帰ってきて、「私今ドイツ人と同棲してるの」と言ってきた時のことを思い出した。
日本のけん玉は、しばらく見ないうちに、向こうで会社を作り、プロプレイヤーを育てているようだった。次々に新しいけん玉を作り、トリックを考えて動画に収め、洒落た音楽を付け、ネットにアップする。名前もけん玉からkendamaへ変え、すっかり海外に溶け込んでいた。
パッと見て気付かなかったが、見た目も随分変わっていた。大皿や中皿は玉を乗せやすいように、少し大きく改良されていた。玉には滑り止め用の特別な塗装が施されている。玉の中にある紐を止めるビーズもベアリングに変わるなど、全てがアメリカナイズされていた。
もう僕の知っているけん玉はそこにはなかった。
けん玉の色は赤。その素朴さが好きだった。
けん玉の紐は白。その潔さが好きだった。
文化祭の準備の時、二人で自転車でダイソーに行ったことやモンゴル800のCDを貸し借りしたことなんて忘れてしまったかもしれない。僕にはそう思えた。
こんなのあいつじゃない。
しかし周りからの評価は違った。
「けん玉ってなんか良いよな」
「海外の人がやってるとカッコ良く見えるよね」
「むしろ日本にはない派手さがウリだよね」
は?
何が?
シンプル・イズ・ベストやし。買ったばっかりは玉がツルツルだけど、何度も失敗することで玉の塗装が剥がれて乗りやすくなったり、皿が小さいからこそ乗ったときの感動が増したりするし。
高校のテニス部の時が一番だったし。学校帰りに寄ったミスドで見せたあの笑顔が一番最高やったし。
海外は…怖いとこやで…ホンマに……
海外で生まれた新しい技
その1(フリップ)
けんを手元でクルッと回転させる技。回転数が上がるほどけんを取るのが難しくなり、難易度が上がる。回転寿司と一緒ですね。
その2(ジャグ)
ジャグリングのことである。お手玉のようにけんと玉を片手で交互にジャグリングする。5つの玉で普通にジャグリングするくらい難しい。
その3(タップ)
玉を持ち、空中にあるけんのお尻の部分を数回叩く技。叩いた後ジャグにつなげたり、灯台をしたりするので習得するのに5年くらい掛かる難しい技。
その他(ストリングプレイ)
紐を指にかけてヨーヨーみたいにくるくる回す技。ストリングプレイができてからフリースタイルといって音楽に合わせてプレイすることができるようになってけん玉の幅が広がった。
ここまで書いて、動画を貼ったら良いやんということに気付いたので貼ることにした。上に書いた技もたくさん組み合わされているので探してみてください。
プレイヤーはSWEETS kendama japanの金田奏くん。
大会の結果はというと、奏くんは惜しくも2位だった。最後の一人までは1位をキープしていたものの、予選1位で通過した双子のニックギャラガーが最後の最後にほぼミスなしの演技を見せ、華麗に抜き去って行った。ちなみに3位は伊丹けん玉クラブの屋嘉比るみなちゃん。表彰台に女の子が初めて登ったということで、けん玉会は大盛り上がりでしたとさ。
けん玉の歴史の中に自分もいるんだと感じられた良い大会でした。
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